1. 白内障における“レンズの種類“と“手術後の見え方“について
手術時に目に移植する眼内レンズには2種類のタイプがあります。公的保険の適応となる焦点が一つの“単焦点眼内レンズ”と、“老眼矯正眼内レンズ”ともいわれる焦点を複数持つ“多焦点眼内レンズ“であり、手術後の眼鏡使用頻度を減らせる可能性があります。
(下図イメージ)。
*中央は2焦点で、3焦点は遠・中・近の三つの焦点をもち、連続焦点型=多焦点+深度拡張のハイブリッド等もあります
2. 単焦点眼内レンズの見え方
患者様のご希望により、眼内レンズの度数を以下の3パターンから決めます。いずれも手術後、ある程度は眼鏡使用が必要となります。
①近くを見えるようにする。(外出時には遠くを見るため日常的に眼鏡が必要)
②中間距離を見えるようにする。(遠近両用の眼鏡が必要な場合が多い)
③遠くをよく見えるようにする。(読書時には老眼鏡が必要)
3. 多焦点眼内レンズ (老眼矯正眼内レンズ)の見え方
当院では選定療養と自費診療 (詳細後述)として扱っており、以下に加えて乱視矯正の機能を付加できるレンズもあります。(乱視矯正は医師の判断で使用)
④ 焦点深度拡張(EDOF)レンズ:焦点深度が広く設計されているため遠方から 60cm程度まで見えますが、手元の小さい文字は眼鏡が必要な場合があります。
⑤ 波面制御型焦点深度拡張(EDOF)レンズ:上記④焦点深度拡張レンズの 波面制御型という新型のレンズで、グレア・ハロを単焦点と同程度レベルまで軽減 する機能を持ち、夜間運転が多い人にとっては有用なレンズです。
⑥ 3焦点レンズ:遠(5m)・中(60cm)・近(40cm)の3カ所に焦点を持ち、眼鏡装用頻度を減らすことができます。若干グレア・ハロを感じる方がいます。
⑦ 連続焦点型レンズ:2焦点+深度拡張型を合わせたタイプで、遠方から近方まで連続して見えるように作られているレンズです。若干グレア・ハロを感じる方は多い。
⑧⁻⑨ 見え方がより自然に見えるタイプの深度拡張型レンズや、5焦点レンズで海外 からの輸入による日本未認可の自費診療のレンズ等があります。
4. メガネなしで見える範囲(おおよその目安)
◎参考1:レンズ別の見え方一覧
レンズ種類 | 30cm | 40cm | 50cm | 60cm | 1m | 5m | ハロー・グレア 回避 |
|
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
保険診療 | ①単焦点(近)30cm | ◎ | 〇 | △ | △ | × | × | ◎ |
②単焦点(中)60cm | △ | △ | 〇 | ◎ | 〇 | × | ◎ | |
③単焦点(遠)3-5m | × | × | △ | △ | 〇 | ◎ | ◎ | |
選定療養 || 手術費用 保険診療 + レンズ差額 自費 |
④焦点深度拡張 60cm~∞ Tecnis Symfony(シンフォニー) |
△ | △~〇 | 〇 | ◎ | ◎ | ◎ | 〇 |
⑤波面制御型焦点深度拡張 Vivity (ビビティ) 50cm~∞ |
△ | △~〇 | 〇 | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | |
⑥3焦点 40cm・60cm・∞ PanOptix (パンオプティクス) |
〇 | ◎ | 〇 | ◎ | 〇 | ◎ | 〇 | |
⑦連続焦点型 33cm~∞ Tecnis Synergy(シナジー) |
◎ | ◎ | ◎ | 〇 | ◎ | ◎ | △~〇 | |
自費診療 || 手術 + レンズ 全て自費 |
⑧焦点深度拡張型 Mini Wel(ミニウェル) |
〇 | 〇 | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ |
⑨5焦点 40・60・80・133・∞ Intensity(インテンシティ) |
◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | 〇 |
◎参考2:単焦点/2焦点/3焦点 眼内レンズの見え方
5. 各多焦点眼内レンズの種類の大まかなレンズ特性と性能一覧
◎テクニス シンフォニー(Tecnis Symfony):
選定療養・乱視矯正〇
焦点深度拡張レンズ(EDOF):中間~遠方
アメリカのAMO社の深度拡張型(EDOF)というコンセプトの多焦点眼内レンズです。焦点深度を拡張し、遠方から中間まで自然な見え方が得られる独自のエシェレット回折型デザインにより、グレア・ハロー・コントラスト感度低下が軽減され、中間~遠方までが見えるため運転やスポーツをする方にお勧めですが、読書やスマホなどを見る時は老眼鏡が必要な場合もあります。
◎ビビティ(Vivity):
選定療養・乱視矯正 X
波面制御型焦点深度拡張レンズ(EDOF):中間~遠方
最近発売された、アメリカのAlcon 社の深度拡張型(EDOF)というコンセプトの多焦点眼内レンズです。上記のテクニスシンフォニーと同様に焦点深度を拡張し、遠方から中間まで自然な見え方が得られる構造ですが、波面制御型という特殊デザインの採用により、グレア・ハロー・コントラスト感度低下が単焦点と同レベル程度まで軽減されている特徴があり、特に夜間の運転が多い方に有用であると考えられているレンズ。ただし、乱視矯正レンズが未発売のため、そこが欠点となっています。中間~遠方までが見えるため運転やスポーツをする方にお勧めですが、読書やスマホなどを見る時は老眼鏡が必要な場合もあります。
◎パンオプティクス (Pan Optix):
選定療養・乱視矯正〇
3焦点:近方・中間・遠方
アメリカのAlcon社の遠方・中間・近方(5m・60cm・40cm)に焦点を持つ3焦点レンズであり、2020年12月時点で唯一、国内承認の選定療養に対応している3焦点型多焦点レンズです。
光のエネルギーロスを少なくするようにデザインされたことで、従来の多焦点レンズに比べて、明るさの変化の影響を受けにくく、ハロ・グレアを少なくすることで自然な見え方が可能となりました。パソコンやスマホの使用、料理、スポーツなどにより取り組みやすくなり、術後の患者様のQOL(生活の質)の維持・向上に繋がります。ただ、ある程度はハロー・グレアが出ることもあり、人によっては夜間の運転でまぶしさを感じる方もいるようです。
テクニスシナジー(Tecnis Snergy):
選定療養・乱視矯正〇
連続焦点型:近方~遠方まで連続的に焦点が合う
テクニスシナジーは、ジョンソンアンドジョンソンから発売された、”連続焦点型”といわれる多焦点眼内レンズであり、2焦点レンズ+深度拡張型レンズを組み合わせた最新のハイブリッドタイプの眼内レンズとなっています。
2焦点型は手元の見え方を重視した構造であり、深度拡張型は中間から遠方距離の自然な見え方を重視した構造ですので、この2つのレンズの優れた部分を組み合わせたことで、遠方から手元まで中間距離の落ち込みが少なく見えることに加えて、コントラスト感度の低下も少なくなっています。ただ、ある程度はハロー・グレアが出ることもあり、人によっては夜間の運転でまぶしさを感じる方もいるようです。
また、3焦点レンズよりも近方に強いという特性を持つため、読書など手元での作業が多い方に利便性をもたらすと考えられています。 さらに詳しい情報は院長のブログまで
◎ミニウェル・レディー(MINIWELL ready):
自費診療・乱視矯正〇
焦点深度拡張型:中間~遠方
イタリアのSIFI MedTech社の深度拡張型レンズであり、世界で初めて開発されたプログレッシブタイプ(特許取得)の球面収差の原理を利用したレンズ光学構造によりヒト水晶体眼に最も近い自然な見え方を実現した多焦点眼内レンズです。
遠方・中間・近方がスムーズに見え、グレア・ハローがほとんど生じないため、スポーツや運転をされる方、夜間の見え方を重視される方に向いています。近方が若干弱いため読書距離は老眼鏡が必要となる可能性があります。
◎インテンシティ(Intensity):
自費診療・乱視矯正〇
5焦点:近方・中近・中間・遠中・遠方
イスラエルのHanita社製の世界唯一の回折型5焦点レンズです。フーリエ変換に基づき計算された回折構造で、これまでの回折型2焦点や3焦点眼内レンズにはない特許に基づいた独自のアルゴリズムを持ちます。
滑らかな回折エッジの採用により光エネルギーロスが6.5%と3焦点レンズよりも少ないため、シュミレーション上は選定療養の3焦点レンズよりもハログレアが軽減されていて、かつ遠方の見え方を犠牲にすることなく、連続的に中間~近方も見えやすい構造になっているレンズです。このレンズは5つの焦点距離(40cm・60cm・80cm・133cm・5m)を持つことで、日常のあらゆる活動をカバーできるようになりました。また、乱視レンズも発売されさらに適応が拡大しております。
6. 各レンズタイプによる距離別の見え方と眼鏡装用頻度イメージ
焦点が細かく分かれているに従い、眼鏡依存率が低下するイメージです。
※多焦点眼内レンズでは、見え方に慣れるまで時間がかかることがあります。また、ピントの会いにくい距離をみるときや小さな文字をみるときは眼鏡が必要になることがあります。
7. 各レンズタイプの焦点深度と視覚の質(ぼやけ感等)の関係
焦点が多いものほど遠方から近方までよく見え、深度拡張タイプほど視覚の質がいい傾向がある印象です。
8. 多焦点眼内レンズの手術をするにあたっての注意点。
1)視力が安定するまで数か月ほどかかる方もいらっしゃるといわれています。
2)多焦点眼内レンズは基本的に眼鏡装用率を減らす(限りなく少なくする)というのを念頭においてください。術後の眼鏡使用率は概ね10-15%程と報告されていて、手元等の細かい字を読むために必要な場合に装用します。
(参照データ)2焦点と単焦点眼内レンズの眼鏡使用率
Yamauchi ら . Comparison of visual performance of multifocal intraocular lenses with same material monofocal intraocular lenses. PLoS One. 2013 Jun 28;8(6):e68236 を一部編集して作成
3)多焦点眼内レンズは“光を分散させて見る“特性上、手術後にWaxy Visionという見え方のコントラスト感度が落ち、ぼやけて見えにくい訴えで、レンズを入れ替える事例が0.3%~1%程度あると報告されています。
4)一部の多焦点眼内レンズについては、単焦点の見え方に比べ、スターバーストやハローやグレアと言う光が散乱してぼやけて見える症状(下図参照)や、暗い場所でぼやけ感が出る可能性(7、各レンズタイプの焦点深度と視覚の質の関係参照)があります。
左:単焦点レンズの見え方、右:多焦点レンズの見え方
5)白内障以外に目の病気がある場合には視力があまり改善しないこともあります。手術前からある程度予想できればお話ししますが、予想が困難で手術してみなければわからないこともあります。ただし、そのような場合でも水晶体の混濁は改善します。また、多焦点眼内レンについては、白内障以外の病気がある場合は適応にならない場合があります。
9. 手術費用について
1)単焦点眼内レンズ 健康保険適応
手術費用+短期滞在手術等基本料1がかかり、1割負担の方で片目で約17,000円、2割負担の方は約34,000円、3割負担の方は約50,000円の手術ですが、1割や2割負担の方は1ヶ月の窓口支払いの上限額が18,000円ですので、同月内に両眼手術をする場合はその月のお支払いも18,000円となります。また、その他の方も収入によっては1ヶ月の窓口支払いの上限額がありますので限度額適用認定証を申請して持参してください(国民健康保険の方は市役所や区役所、社会保険の方は保険者に確認してください)。
2)多焦点眼内レンズ(選定療養対応レンズの場合)
当院は厚生労働省の選定療養制度認可施設です。
選定療養対応レンズ(厚生労働省認可の多焦点眼内レンズ)を使用するときは、“各保険割合における単焦点レンズと同等の手術費用(上記単焦点レンズ手術代金)+レンズの差額代金(自己負担)”が手術当日の代金となり、手術前後の検査、薬剤費などは公的保険の適応となります。(下図のイメージおよび、右ページ価格一覧)
なお、乱視レンズを使用するかは患者さんの眼の状況応じて担当医が判断し、手術途中で多焦点眼内レンズに関連しない眼の合併症等が発生した時は単焦点レンズに切り替えることがあります(自費レンズも同様です)。
3)多焦点眼内レンズ(自費診療対応レンズの場合)
当院では、日本で認可されている多焦点眼内レンズより、見え方の質などがより優れていると評価されている輸入による多焦点眼内レンズも使用しており、その場合の費用は全額自費での扱いとなり、手術費用+レンズ代金+術後点眼・内服+手術後1か月までの診察・投薬・検査料金すべて含んだ費用となっております。詳細の費用についてはクリニックにお問い合わせください。
単焦点レンズ 通常白内障手術 |
+アイステント 緑内障併用手術 |
多焦点レンズ 通常白内障手術 (緑内障併用時:左参照) |
||
---|---|---|---|---|
保険負担割合 | 保険診療 | 選定療養 | 自費診療 | |
1割 | 約 17,000円 | 左記+レンズ代金① | 下記表の 手術 +レンズ代金② |
|
2割 | 18,000円/月 | 左記+レンズ代金① | ||
3割 | 約 50,000円 | 約 100,000円 | 左記+レンズ代金① | |
区分1・区分2 | 8,000円/月 | 左記+レンズ代金① |
選定療養 | ※価格は税込み価格 | ||
---|---|---|---|
レンズ代金① | 焦点深度拡張レンズ(Symfony) | シンフォニー | 198,000円 |
+乱視 | +トーリック | 253,000円 | |
波面制御型焦点深度拡張レンズ (VIVITY) 乱視無し |
ビビティ | 308,000円 | |
3焦点レンズ (Clareon PanOptix) |
クラレオン パンオプティクス | 308,000円 | |
+乱視 | +トーリック | 363,000円 | |
連続焦点型レンズ (Tecnis Synergy) |
テクニスシナジー | 319,000円 | |
+乱視 | +トーリック | 374,000円 |
自費診療 | ※価格は税込み価格:キャンセル料77,000円(税込)が手術説明時に保証金として必要 | ||
---|---|---|---|
レンズ代金② | 焦点深度拡張型(Mini Well Ready) | ミニウェル | 495,000円 |
+乱視 | +トーリック | 572,000円 | |
5焦点レンズ (Intensity) | インテンシティ | 605,000円 | |
+乱視 | +トーリック | 660,000円 |
10. 生命保険・医療保険の給付金について
ご自身が任意で加入されている生命保険の医療特約や入院・手術を対象とした医療保険で、白内障手術のうちの保険診療に該当する金額については給付金の対象となる場合があります。その場合は、契約内容に沿った給付金が支給されます。詳しくは、ご加入されている生命保険会社・JA・共済・郵便局等にお問い合わせください。
多くの場合、所定の診断書の提出が必要となりますので、診断書の用紙を各保険会社等からお取り寄せ頂き受付にお出しください。今回、ご自身がお受けになる(受けられた)手術の正式名称は下記の通りです。
なお、当院での手術は施設認定により、手術費用と同時に短期滞在手術等基本料1がかかりますので、ご加入の保険会社に “短期滞在手術等基本料1“ がかかる旨もお伝えください。
●保険会社に問い合わせる診断名と手術名と手術基本料
診断名 白内障
手術名 K282-1ロ 水晶体再建術
(1.眼内レンズを挿入する場合:その他のもの)
手術基本料 短期滞在手術等基本料1
●保険会社に問い合わせる診断名と手術名と手術基本料
診断名 白内障
手術名 K282-1ロ 水晶体再建術
(1.眼内レンズを挿入する場合:その他のもの)
手術基本料 短期滞在手術等基本料1
11. 多焦点眼内レンズの白内障手術は医療費控除が可能です
1年間に家族が支払った医療費の合計が10万円を越える場合、確定申告の際に申請することで医療費の一部が所得税率に比例して返金されます。多焦点眼内レンズの手術費用も確定申告時に医療費控除として適応されます。
※「治療費の領収書」や「手術費の領収書」が必要です。再発行は行えませんので、大切に保管してください
また、眼鏡などの治療器具についても、「白内障」「緑内障」「斜視」などで手術後の機能回復用のメガネや、幼児の未発達視力向上のための眼鏡などが医療費控除の対象となります。
(近視や遠視など日常生活に必要なメガネは医療費控除の対象となりません)
診療科目:眼科一般
〒167-0022
東京都杉並区下井草3-41-1 パロ下井草2F
診療時間 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日・祝 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
9:30~13:00 | ● | ● | ● | - | ● | ▲ | - |
15:00~18:30 | ● | 手術 | ● | - | ● | - | - |
休診日:木曜日、土曜日午後、日曜日、祝日
▲土曜のみ9:00〜13:00
※受付時間は診療終了30分前まで
※火曜午後は手術のため一般外来は実施しておりません