1.抗VEGFとは
まず、 “VEGF” とは、英語でいうと “Vascular Endothelial Growth Factor” =血管内皮増殖因子(けっかん ないひ ぞうしょくいんし)という言葉の頭文字をとった略語であり、本来は体内で新しい血管がつくられるときに放出される成長因子の一種です。増殖糖尿病網膜症・加齢黄斑変性症等の病気の際には、この因子が放出されることで、網膜下に新生血管といわれる “もろい“ 血管が増殖・成長し、網膜内の毛細血管から血液成分が漏れ出すことで網膜がむくみ、視力低下が引き起こされます。
そこで、この “VEGF” を押さえるために開発されたのが “抗VEGF”(図1)という薬剤であり、文字の通り “VEGF” を抑え込んで “あらがう” 作用(図2:抗VEGFがVEGFを抑え込んでいる)を持っています。 これを使用利用することで各種疾患の症状を軽減することを目的とします。
当院では各種類ある抗VEGFのうち、厚生労働省に認可されているアイリーア・ルセンティスを使用しております。
2.硝子体注射とは
硝子体注射とは、眼球に直接 “抗VEGF” を注射する治療法であり、網膜に発生する異常血管(新生血管)に対して注射をする場合と、網膜のものを見る中心である黄斑の浮腫(黄斑浮腫)に対して注射する場合があり、それぞれ以下のような疾患が治療の対象となります。
①新生血管の抑制目的
- 加齢黄斑変性症
→解説はこちらのページ - 増殖糖尿病網膜症
→解説はこちらのページ - 近視性脈絡膜新生血管(脈絡膜新生血管):近視の強い若い方に発症します。
- 血管新生緑内障:特殊な型の緑内障で、各原因で発生する新生血管により発症します。
②黄斑浮腫の改善目的
- 糖尿病網膜症による黄斑浮腫
→解説はこちらのページ、図3 - 脈静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫
→解説はこちらのページ、図3
3.方法
点眼麻酔の後に、眼の周囲および眼球をしっかりと消毒をします。次に顕微鏡を使用して強膜(白目)から針を刺して硝子体内に薬剤を0.05cc注入します(図3)。
4.合併症
硝子体内注射の考えられる合併症として、眼内炎、眼圧上昇や、1%程度に眼感染症、水晶体損傷、網膜裂孔、網膜剥離などが考えられます。他にも、注射後眼球内へ薬剤が入ることによって飛蚊症と言われる浮遊物が増えたように感じる症状の出現や、結膜下出血(白眼の出血)が一時的に起こる場合もあります。
また、抗VEGF剤自体が血管を作るのを抑制する効果があるため、非常にまれですが0.3%程度に脳卒中・脳梗塞・心筋梗塞などなどを発症する可能性もあるといわれています(実際にこの薬剤が原因で発生したと断定できるものではありませんが、報告はあります)。
5.効果
加齢黄斑変性に注射した場合は、網膜下に発生して出血などを繰り返す新生血管(脈絡膜新生血管)に作用して、出血の再発を抑制したりします。
実例としては、網膜下に出血を伴う加齢黄斑変性(図4)に対して注射を実施したところ、出血が吸収され、出血していた部分がやけどの跡のような瘢痕繊維組織で置き換わってはいますが、再出血もなく鎮静化しています(図5)。
また、網膜静脈分枝閉塞症の症例では、上方の網膜血管が閉塞したために、火炎状の網膜出血を起こした症例(図6)では、黄斑部に浮腫(図7)が起こり、視力が低下していましたが、注射後出血が吸収(図8)して、黄斑浮腫の改善(図9)が見られています。
また、糖尿病網膜症によるのう胞様黄斑浮腫に対して、抗VEGFを用いたところ、動画1の様に物を見る中心である黄斑に浮腫があったものが、動画2の様に浮腫が軽減することがあります。このように加療することで、網膜の細胞障害を少しでも抑制することができ、将来的な視力の維持をめざすのを目的とした治療のために利用されます。
6.注射後に関して
症例によってはあまり効果が出ない場合や複数回の投与が必要になることがあります。感染症を防ぐために抗菌剤点眼を注射前後の3日間使用します。また、注射後3日間は眼に水道水・お風呂・プールの水などが入らないように注意してください。合併症が発生した場合には、最善の治療を行い、場合によっては大学病院への紹介などによる入院手術の処置が必要になることがあります。その際の費用も通常の治療費と同様に取り扱います。
7.注射をしない場合
治療を行わずに症状が続いた場合、病状が悪化することもあります。また、加療しないことで黄斑部が障害されると恒久的に視力が低下する場合があります。
他の治療法としては、網膜光凝固治療・ステロイドのテノン嚢下注射などもあり、同意が得られない場合でも、それらの方法で可能な限り視力を維持出来るように対応を行います。
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