緑内障とは
1、緑内障の定義
日本眼科学会のガイドラインより緑内障の定義がなされていて、
“緑内障とは,視神経と視野に特徴的変化を有し,通常,眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患“
(引用:http://www.nichigan.or.jp/member/guideline/glaucoma3.jsp)となっていて、難しい内容に思えますが、簡単に言うと
“眼の神経の異常で見えない部分ができるが、治療により進行を止める(抑える)ことが可能な病気” という事です。ここで、大事なのが最後の一節、”治療により進行を止める(抑える)ことが可能“という部分で、逆に言うと治療しないと進行してしまうという事です。
2. 緑内障の原因
眼球の中には光を通す必要があるために血管が通っていません。そこで、血管がないかわりに栄養を循環させる目的で作られるのが“房水(ぼうすい)”です。房水は眼球の中の毛様体突起という部分で作られて、眼球の中を循環して組織に栄養を届けた後に、目の前の角膜と虹彩の間にある“隅角(ぐうかく)”で吸収されます(図1)。その房水がスムーズに流れなくなることで、眼球の圧力である“眼圧(がんあつ)”が上昇して視神経とその周囲の網膜血管を圧迫することで、視神経に障害が発生して視野(見える範囲)が欠損してゆくのが緑内障です。
タイプとしては、隅角が広いにもかかわらず隅角が何らか理由で目詰まりを起こすことで眼圧が上昇する、開放隅角緑内障(図2)、隅角が狭いことで防水の流れが滞ってしまい眼圧が上昇する閉塞隅角緑内障(図3)、さらに閉塞隅角が極端に進行すると急激に眼圧が上昇(50-70mmHg/20mmHgが正常)してしまい、急激な視力低下と眼の痛み及び嘔吐などを引き起こす急性緑内障発作(図4)等があります。
また、中には眼圧が正常でも、元々の視神経の組織が弱いために視野が欠損する正常眼圧緑内障といわれるタイプの緑内障もあります。
3. 症状-初期にはわかりにくい視野欠損-
急性緑内障発作(図4)では急に視力が落ちたり、眼が痛くなることで症状が出るのでわかるのですが、それ以外の慢性緑内障のほとんどが徐々に視野欠損が進行する(図5)ため、あまり気づくことがありません。ですので、自覚症状が出てきたときにはかなり視野がかけていることもあり、緑内障が健診などで指摘されるまで発見されにくい理由です。なお、視神経が障害を受けると神経細胞は再生できないために徐々に神経繊維がやせ細ってゆき、通常眼球に接続されている視神経乳頭という部分の神経の塊がやせ細ってみる“視神経乳頭陥凹の拡大“(図6)が見られ、欠損した視野は一生そのままとなります。
図5 緑内障は初期から末期にかけて、徐々に視野欠損が進行する。
図6 右:正常な視神経乳頭 左:視神経乳頭陥凹拡大(矢印:神経細胞が萎縮した視神経乳頭)
4. 治療法
実は緑内障になる原因ははっきりとわかってはおらず、いったん失った視野を取り戻すことはできません。ですので、緑内障と診断された場合、それ以降の進行を止める目的で治療を実施する必要があります。その治療法で、現在において一つだけ医学的に有効であると証明されている治療法が眼圧を下げるということです。その方法には点眼で眼圧を下げる方法と、手術で眼圧を下げる方法の二つがあります(網膜の血流を改善させることで視神経を守るというような治療法も研究されています)。
①点眼:目薬で眼圧を下げて視野を守ります
まず一般的に行われるのが、眼圧を下げるために点眼継続するということで、その際はもともとの眼圧(べースライン眼圧といいます。)を基本にして3割ほど眼圧を下げる(目標眼圧といいます)ことが推奨されています。当院では緑内障と疑われてから数回程度、眼圧を測定した後、各患者さんに合った目標眼圧を設定して点眼を開始していただいています。また、点眼には薬剤の効力が違うものがいくつかありますので、ご本人合った点眼を見つけるために、1剤で目標眼圧に達しない場合は、2剤目を追加したり、合剤といって2種類を合わせたような点眼を使用していただき、眼圧が十分に下がるまで点眼をしていただきます。ここで、重要なのは点眼を一度開始すると一生涯点眼を継続する必要性があるということです。
②緑内障に対する手術:点眼の効果がない場合や少しでも眼圧を下げたい時の選択枝です
上記の点眼で十分に目標眼圧が達成されない場合や、多数の点眼をつけていてもどんどん視野が欠損する場合、ほかにも元々の眼圧がかなり高いために点眼のみでは眼圧を下げるのが困難と思われる緑内障の症例には、より眼圧を下げることも目的として手術を実施する事があります。その手術の基本は、眼球内の房水を眼球のその外に導くための通路を作成する事を目標とした繊維柱帯切除術といったものから、もともとの水の流れを回復させるための隅角形成術や、比較的短時間ですむような1mm程度の機械を挿入するようなシャント(短絡路作成)の手術方法も実施されており、手術方法も時代によってどんどん変遷してゆく状況になっています。いずれにしても、患者さんの病状によってどの術式が適当かを見ながら決定してゆくことになりますので、くわしくはご相談ください。
③当院で受けることができる、低侵襲緑内障手術(MIGS)併用の白内障手術、について
当院では2022年11月より緑内障加療の一環として白内障手術を受けるときに、併用手術(同時手術)として低侵襲緑内障手術(MIGS)を受けられるようになりました。低侵襲緑内障手術というのは、iStent(アイステント:正式名称iStent inject®W:)(図7)といわれる、微小な金属の ”ステント” といわれる器具を、白内障手術の時に目の中に留置する手術となっていて、この手術は最近流行りとなっている、低侵襲緑内障手術(MIGS : micro invasive glaucoma surgery)という、手術に分類されております。
●アイステントって?(iStent inject®W)
このアイステントは、緑内障を治療するために使われる医療機器で、医療用グレードのチタン合金でできています。このiStentを眼の中の組織に埋め込むことで、房水(ぼうすい)と言われる、目の眼圧を調整する液体の排出循環を改善し、眼圧を低下、安定することが目的です。当院で使用しているアイステントの手術は白内障手術と同時に行うものです。白内障手術では小さな切り口を作りますが、白内障手術の最後に、その小さな切り口からiStentを挿入して、繊維柱帯という眼の組織に埋め込みます(図8)が、痛みを感じることはほとんどありません。
●利点と安全性、そして危険性について
この手術は白内障手術と同時に行い、挿入に要する時間は5分程度で済みますので、少ない侵襲で術後の回復が早い上に、眼圧を下げる効果が期待できます。また手術後に眼圧が下がること(個人差はあるものの緑内障点眼1種類分:1年後で3~8mmHg程度の減少)で、緑内障治療用の点眼薬の数を減らせる可能性がありますので、緑内障の点眼治療中の患者さんにとっては、点眼の数が減ることで点眼の手間から解放される可能性があるメリットがあります。ただし、全ての緑内障が適応になる訳ではなく開放隅角型の緑内障が適応になります。なお、安全性として、有害事象として報告されているのは、出血や炎症、目の違和感、ステントの詰まり、一過性の高眼圧や低眼圧などとなっております。
5. 病気の経過について
緑内障は加齢現象と一緒で、一度進行し始めると徐々に視野が欠損してゆく病気ですので(視野の欠損があっても進行しない場合は厳密には緑内障ではありません)、進行を止めることが重要です。もし治療しないでそのまま放置しておくと、視野が徐々に欠損してゆき、最後には失明に至ることもあります(図9)。ただし、この進行の程度についてはかなりの個人差がありますので、そういった視野の欠損の進行を見る意味でも疑わしいと診断されたら、定期的に視野検査などをしつつ、治療の必要性があるかどうかを担当医と相談してください。
図9 治療の有無に応じての病状の推移
6. その他 -大事なこと-
過去の大規模な疫学調査で、40歳以上の30人に1人が緑内障にかかっていることが明らかにされています。その中で8割の方には自覚症状がなく、皆さんの目を緑内障から守るためには、早期発見・早期治療が非常に重要です。数年に一回は検診をするとともに、適切に経過観察をすることで、”見える老後”を楽しんでもらいたいものです。
診療科目:眼科一般
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